
新卒で入った接客の会社を1年たたずに退職。次に選んだ事務職も短期で辞めた。その後は配達のアルバイトをしながら「正社員に戻る道」が見えないまま過ごしていたT.Mさん(23)。転職活動を始めたのは求人を探すためではなく、まず誰かに話を聞いてもらうためだった。半年を振り返って本人に話を聞いた。
T.Mさん(23歳・男性)
接客業 → 事務職 → 配達アルバイト → 営業職(正社員)
—— まず、これまでの経歴から教えてください。
新卒で入ったのは接客の会社でした。人と話すのは嫌いじゃなかったので選んだんですが、始まってみると想像していた仕事とはかなり違っていて。早番と遅番が週ごとに入れ替わるので、休みの日は昼まで寝て終わるんです。それで10か月で辞めました。
次に選んだのが事務職です。「今度は落ち着いて働ける仕事にしよう」と思って。でも今度は逆でした。座って、決まった作業を淡々と進める。3日目くらいから時計を見る回数が増えて、これも駄目だなと。結局これも短期で辞めることになりました。
—— 2社続けてというのは、こたえますよね。
こたえました。「自分は何をやっても続かない人間なんだ」と思ってしまって。履歴書を書きかけて、職歴のところで止まる。それで閉じる。何回かやりました。どうせ書類で落とされるだろう、と。
—— その後は、配達のアルバイトをされていたそうですね。
はい。とりあえず収入は必要だったので、すぐ始められる配達の仕事を選びました。働いた分だけお金になるので悪くはなかったです。人間関係で悩むこともないですし。ただ半年くらい経ったころから、毎日が全部同じに見えてきて。昨日と今日の区別がつかないんですよ。
地元の友達と飲んだときに、後輩の指導が大変だとか、任された案件の話をしているんです。自分は明日も同じルートを回るだけで、来年の今ごろもたぶん同じことをしている。帰りの電車でそれを考えて、これは変わらないなと思ったのが動き出したきっかけでした。
—— まず何から始めたんですか。
最初は自分で求人サイトを見ていました。でもまったく進まなくて。「未経験歓迎」と書いてある求人を開いても、応募条件のところで手が止まるんです。「社会人経験3年以上」と書いてあると、そこで閉じる。職務経歴書の書き方も分からない。空白期間をどう書けばいいのかも分からない。それで、一人で探すのは無理だなと。探す前にまず相談してみようと思いました。
—— 初回の面談は、どんな雰囲気でしたか。
正直に言うと、身構えていました。相談したらその場でどんどん求人を出されて、「まずは応募してみましょう」と言われるんだろうなと。数を打たされるイメージがあったので。
でも担当の方に最初に言われたのが「今日は、求人を見ないでおきましょう」だったんです。「T.Mさんの場合、いま求人を見ても条件のところで自分を落としてしまうだけになります。先に、これまでの経験を全部棚卸ししませんか」と。
「今日は、求人を見ないでおきましょう。先に、これまでの経験を全部棚卸ししませんか」
── 担当キャリアコンサルタントの、最初の一言
拍子抜けしました。求人の画面も開かないんですよ。同時に、この人は求人を当てはめようとしているんじゃなくて、自分のことを知ろうとしてくれているんだなと感じて。そこから話しやすくなりました。
—— その「棚卸し」では、どんなことを聞かれるんですか。
とにかく細かく聞かれます。接客のときに一日何人と話していたか。クレームを受けたときにどう対応していたか。配達で担当エリアをどう覚えたか。「そんなこと、誰でもやってますよね」と何回も言いました。
そのたびに「それは誰でもやっていることではないですよ」と返されるんです。担当エリアにいつも不在の家があって、時間を変えて回ったら受け取ってもらえるようになった、という話をしたときも「それは相手の立場で考える力ですし、営業でいえば提案そのものです」と言われて。自分では、ただの手癖くらいに思っていたことでした。
—— 自分の見え方が変わりましたか。
変わりました。それまで自分の職歴は「失敗が2回と、空白」だと思っていたんです。でも整理してもらうと、接客で身についた対人スキル・事務で覚えた正確さ・配達で鍛えた時間管理というふうに並ぶ。同じ経歴なのに、並べ方を変えるだけでまったく違うものに見えました。そのとき書いてもらった紙は、いまも取ってあります。
—— 一番印象に残っている言葉は何ですか。
「アルバイトで得た経験も、話していいんですよ」という言葉です。これは大きかったです。
それまで、配達の期間は隠すべきものだと思っていました。面接で聞かれたらどう言い訳しようかとばかり考えていて。でも、そこも含めて話していい。むしろ話したほうがいい。それが分かってから、面接への怖さがかなり減りました。職歴に自信がなくても、そこは黙るところじゃないんだなと。あの一言が、たぶん一番効きました。
—— 営業職は、ご自身で希望されたんですか。
いえ、まったく考えていませんでした。営業ってノルマがあって、押し売りみたいなことをしないといけない仕事だと思っていたので。自分には無理だろう、と。
提案されたときも最初は「え、営業ですか」と言いました。でも「T.Mさんの強みは、初対面の人と早く距離を詰められることと、相手が何に困っているか気づけること。それが一番活きるのが営業です」と説明されて。たしかに接客でも配達でも、褒められるのはいつもそこだったなと思い当たったんです。
—— 不安はありませんでしたか。
ありました。ただ営業のなかにもいろいろな種類があると教えてもらって、飛び込みで数をこなす営業ではなく既存のお客様と長く関係を作るタイプの会社を中心に見ることにしたんです。実際に何社か並べて、どこがどう違うのかを説明してもらいました。そこで、自分にもできそうだと思えるようになって。職種名だけで決めつけていたら、たどり着けなかったと思います。
—— 面接対策はどのように。
短期離職の理由をどう説明するかを、時間をかけて一緒に整理しました。最終的に、面接では次の3つだけを守ると決めたんです。①前の会社の悪口を言わない。②「合わなかった」で終わらせず、そこで何が分かったかまで話す。③次はなぜ続けられるのか、根拠をセットで話す。この3つです。
付箋に書いて、パソコンの横に貼っていました。オンライン面接のときはカメラの下です。台本を丸暗記するのではなく「この3つさえ外さなければ大丈夫」という形にしてもらえたのが良かったです。「こう答えなさい」ではなく「ここだけ守れば、あとはT.Mさんの言葉で大丈夫です」と言ってもらえたので、本番でも自分の言葉で話せました。
—— 実際の面接では、短期離職について聞かれましたか。
毎回聞かれました。でも想定どおりだったので落ち着いて答えられて。一社だけ「年数の割に経験が浅いね」と言われたところもありましたが、それも自分で感じていたことなので受け止められました。むしろ「だから今回はきちんと選び直すんだ」と思えて、後押しになったくらいです。
—— 結果はどうなりましたか。
営業職で内定をいただきました。電話で聞いて、切ったあとしばらく座っていました。収入も、アルバイトのときと比べると年間で200万円ほど変わりました。金額もありがたかったですが、それ以上に正社員に戻れたことが大きくて。「もう戻れないかもしれない」と思っていた場所に、戻れたので。
—— 周りの反応はいかがでしたか。
親には一番心配をかけていたので、その日のうちに実家に電話しました。特に何も言われなかったんですけど、声で分かりました。友人には「営業やるの、意外」と言われましたね。自分でも意外でしたから。
—— 今回の転職活動を、10点満点で言うと。
9点です。自分ひとりでは絶対にたどり着けない結果だったので、そこは満点です。マイナス1点は動き出すのが遅かったこと。配達をしていた期間にもっと早く相談していれば良かったなと、今は思います。相談するだけなら、失うものは何もなかったので。
—— 振り返って、支援はいかがでしたか。
一番ありがたかったのは、最初に求人を出されなかったことです。あそこで求人を並べられていたら、たぶん条件のところを見て自分から諦めて終わっていました。先に「自分には何ができるか」を言葉にしてもらえたから、その後の面接でも話せた。順番が逆だったら、この結果にはなっていません。
—— 同じように悩んでいる方へ、何か伝えるとしたら。
短期離職やアルバイトの期間があると、どうしても引け目を感じてしまうと思います。僕もそうでした。でも経験は見せ方次第で変わります。少なくとも自分ひとりで履歴書を眺めているだけでは、その見せ方に気づけませんでした。
応募する前でいいので、まず誰かに話してみてほしいです。「まだ何も決まっていない」状態のほうが、むしろ相談する意味があると思います。僕も最初は「何がしたいか分かりません」から始めました。
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